8.Pacific Radio Fire by Richard Brautigan
8.Pacific Radio Fire by Richard Brautigan
この世で最大の海は,カリフォルニアのモントレイで始まるか終わる.それはその人が何語をしゃべっているかによるのだが.友人が奥さんに逃げられた.奥さんは,ドアを開けて出て行った.さよならとも言わずにだ.私は彼と会い,ポートワインを2本飲んで,太平洋に向かった.
それはアメリカ中のジュークボックスで鳴っていた古い歌だ.長い間鳴ってきて,アメリカ中のゴミにも録音されてしまった.全てのものに積もって,いすも車もおもちゃもランプも窓も,あらゆるものが無数のレコードプレーヤーになった.そしてその歌を鳴らして,私たちの失恋した心の耳に届く.
二人で狭くて奥まった砂浜に腰を下ろした.砂浜は御影石と,言葉を話しているかのような広大な太平洋に囲まれていた.
彼の持ってきたラジオでロックを聞きながら,私たちは,静かにポートワインを飲んでいた.二人ともやけになっていた.残りの人生を彼がどう過ごすつもりなのかわからなかった.
ワインをもう一口飲んだ.ラジオからはビーチボーイズがカリフォルニアの女の子のことを歌っているのが聞こえた.かれらのお気に入りだ.
友人の目が濡れたぼろぼろの敷物のようだった.
ある種の変な掃除機のようだったが,私は友人を慰めようとした.おきまりのセリフを繰り返した.誰もが失恋した友人を慰めようとして口にするが,役に立たないセリフだ.
違うのは,他の人間が発している声であるということだけだ.愛するものを失って惨めな思いでうちひしがれている人間の気分を慰めるような言葉なんてないのだ.
ついに友人はラジオに火をつけた.紙切れをラジオの周りに置いてマッチで火をつけた.私と友人は燃えているのを座ってみた.ラジオに火をつける人を見たのは初めてだった.
ラジオが燃えていくにつれて,炎のせいで流れてくる歌が変わりだした.トップ40の1位のレコードが突然13位に変わった.そして9位の曲が,「誰かを愛している」というコーラスの途中で27位の曲に変わった.聞こえてくる曲は,けがをした鳥のように人気が落ちていった.手を打つには遅すぎた.
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