Hometown by Stuart Dybek
柴田元幸の「翻訳教室」(新書館)の課題文を翻訳してみた.
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1.Hometown by Stuart Dybek
誰もが故郷を持っているわけではない.だからある夏の夕べ,君は都会育ちの彼女に,故郷がどんなものか説明しようとする.昔の英雄の像や,褐色に色が変わろうとしている公園の草原の上でピクニックでもするかのようにキャンプをはるホームレス達の辺りを歩きながら.
公園の池を越えてスペイン系の子供達の歓声が野球場から聞こえてきた.それで君は故郷の野球チームで,トラクターやコンバインのヘッドライトや月明かりの中で,外野を守っていたことを思い出す.
薄明かりの中で,君は野球ボールの縫い目よりも,月の表面の模様の方がはっきり見ることが出来た.
君は思い出せるだろう.ホームランボールが頭上を越えてトウモロコシ畑の中へ飛んで,カラスの群れを一斉に飛び立たせたことを.
しばらく歩いた後,彼女と一緒に,君のむさ苦しいアパートの部屋に向かった.通り過ぎたバーの扉は開いていたが,汗とこぼれたビールの臭いがまるで,子供の頃の記憶にある酸えた香りのようだった.それは,線路跡のそばにあった,荒れ果てた穀物庫の酸えた臭いだった.マッチを一擦りすれば火花がちるようだった.
そこには少年達がよく行ったものだ.たばこをすい,時には,彼らが言うには,ある少女に会うためにだった.その少女がいつ現れるのかは,少年達は知らなかったが.少女が来るまでに,イナゴの羽音は耳をつんざき,バッタたちは蒸し暑い空気の中を飛び回っていた.
昼間の月がいつの間にか近づいていて,子供達は,彼らの住むこの小さな町の姿ものを月が映しているのがわかった.
鷹の影がすべるように近づいてきて,鳩の群れがサイロから一斉に飛び立った.子供達は,サイロの裏には気の違った酔っぱらいが住んでいると言っていた.しかし君はその酔っぱらいを見たことはなかった.
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