HONYAKU

Introduction & Translation of Japanese/English literature & Culture 日本と英語の小説の紹介

Sunday, August 20, 2006

Carp by Barry Yourgrau

柴田元幸の「翻訳教室」(新書館)の課題文を翻訳してみた.
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2.Carp by Barry Yourgrau

日常のしがらみから隠れるように,君は公園の池にこっそり逃げ出す.そして池の底に身を沈める.池の鯉達の中で生活するのだ.君はそう決める.鯉男になるというわけだ.
水中では全てが心地よく,かすんでいる.鯉達がすいすい泳ぎ回る.鯉達は全然幸せそうには見えない.「僕のことを邪魔者と思ってるな.よし,そうかもしれないが,水の外があまりに悲惨なのが悪いのさ」と君は思う.
君は今夜泊まるところを探す.息を止めているから頭はもうろうとしてくるが,思っていたほどひどくはない.周りをじっと見回したとき,あまりのショックで息をのみ水を飲みそうになる.女の子が君をじっと見つめているのだ.はやりのオレンジ色に頭を染めて,太くて厚い白い靴下をはいた女の子.君がぽかんと見つめていると,女の子は答えを求めるように手でサインを送ってくる.「ここで何をしているの?」君は面食らって,同じ質問を返す.女の子は困ったように顔をふっと上げて,親指で自分の後ろを指さす.
かすんだ水中に,人間達が集まっているのが見える.夜の池の底のあちこちにだ.君は彼らを見つめて,「鯉人間達だ」と思う.でも鯉人間達は歓迎ムードではない.それどころか,君の方を睨み付ける.皆が君にしっしと手振りをしている.出て行け,ということなのだ.あの女の子も手を腰にまわして睨み付けている.
この敵意を前にして黙っていたが,ついに君は「いやだ」と逆上して言う.泡が口から一気に出ていく.「絶対にあんな惨めなところには戻らないぞ.ここに沈んでいたいんだ.魚たちと一緒にな.」
「どっかに行けよ」 鯉人間達は身振りで言っている.「私たちが先に来たんだ.失せろ」人間同士がじっとにらみ合う.君の目と鯉人間達の目だ.必死な目と怒りの目が池の底でにらみ合う.
鯉達は泳ぎ回っている.尾を振り.いかめしい顔でじっとこの光景をみている.

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