HONYAKU

Introduction & Translation of Japanese/English literature & Culture 日本と英語の小説の紹介

Sunday, August 27, 2006

8.Pacific Radio Fire by Richard Brautigan

8.Pacific Radio Fire by Richard Brautigan

この世で最大の海は,カリフォルニアのモントレイで始まるか終わる.それはその人が何語をしゃべっているかによるのだが.友人が奥さんに逃げられた.奥さんは,ドアを開けて出て行った.さよならとも言わずにだ.私は彼と会い,ポートワインを2本飲んで,太平洋に向かった.
それはアメリカ中のジュークボックスで鳴っていた古い歌だ.長い間鳴ってきて,アメリカ中のゴミにも録音されてしまった.全てのものに積もって,いすも車もおもちゃもランプも窓も,あらゆるものが無数のレコードプレーヤーになった.そしてその歌を鳴らして,私たちの失恋した心の耳に届く.
二人で狭くて奥まった砂浜に腰を下ろした.砂浜は御影石と,言葉を話しているかのような広大な太平洋に囲まれていた.
彼の持ってきたラジオでロックを聞きながら,私たちは,静かにポートワインを飲んでいた.二人ともやけになっていた.残りの人生を彼がどう過ごすつもりなのかわからなかった.
ワインをもう一口飲んだ.ラジオからはビーチボーイズがカリフォルニアの女の子のことを歌っているのが聞こえた.かれらのお気に入りだ.
友人の目が濡れたぼろぼろの敷物のようだった.
ある種の変な掃除機のようだったが,私は友人を慰めようとした.おきまりのセリフを繰り返した.誰もが失恋した友人を慰めようとして口にするが,役に立たないセリフだ.
違うのは,他の人間が発している声であるということだけだ.愛するものを失って惨めな思いでうちひしがれている人間の気分を慰めるような言葉なんてないのだ.
ついに友人はラジオに火をつけた.紙切れをラジオの周りに置いてマッチで火をつけた.私と友人は燃えているのを座ってみた.ラジオに火をつける人を見たのは初めてだった.
ラジオが燃えていくにつれて,炎のせいで流れてくる歌が変わりだした.トップ40の1位のレコードが突然13位に変わった.そして9位の曲が,「誰かを愛している」というコーラスの途中で27位の曲に変わった.聞こえてくる曲は,けがをした鳥のように人気が落ちていった.手を打つには遅すぎた.

7.Inhaling the spore by Lawrence Weschler

7.Inhaling the spore by Lawrence Weschler

西中央アフリカのカメロニア熱帯雨林奥深くにはMegaloponera foetenという名の蟻がいる.地面付近で活動し,臭蟻という名の方が知られている.この大きな蟻は,人間の耳でも聞こえるような鳴き声を出すことができる,めずらしい蟻であり,落葉や熱帯雨林の中の非常に密生した地面近くの下草の間をえさをあさって生活している.
蟻がえさを探している途中で,Tomentella属の菌からでた微細な胞子を吸い込んで,菌に感染することがある.胞子は林冠のどこかから森の地面付近まで大量に雨のように降ってくるのだ.吸い込まれると,胞子は蟻の小さな脳の中に留まり,すぐに成長を始め,宿主である蟻の行動をひどく変えてしまう.見た目には苦しんで混乱したかのようで,やがて,その生涯ではじめて森の地面付近から離れて,ツルやシダの茎を根気強く登っていく.
成長を続ける菌に追い立てられるように,この蟻は,指示されたかのように,ある高さまでたどり着き,その植物にかみついてくっついてしまう.そして死ぬのを待つのだ.このようにして死んでしまった蟻は,熱帯雨林の一部ではありふれた光景だ.
そして菌自体は,生き続ける.蟻の脳を食い続け,神経系を伝わって移動し,最後には,蟻に残った柔らかい組織全てに達する.約2週間の後,釘のようなものが,かつては蟻の頭だったものから飛び出してくる.1.5インチほどの長さになると,この釘状のものは,明るいオレンジ色の先端を持ち,胞子でいっぱいになっている.そして,森林の地面に向けて胞子を降り注ぎ始め,何も疑わずに歩き回っている他の蟻達がそれを吸い込むのだ.